令和2年度 歴史講演会

災害の記憶と記録

講師 岡山大学名誉教授  倉地 克直 氏


 令和3年2月28日(日)、岡山大学名誉教授 倉地克直氏を講師に招いて、イベントホールで歴史講演会を開催した。
 講演では、(1) 明治以前の災害関係史料を見れば、それぞれの時代の事情によって史料の残存に多寡が生じていること、(2) 被災時における「自助・共助・公助」について、(3) 人はなぜ記録を書くのか、について話された。
 (1) は、噴火・津波は江戸時代に情報量が増加しているが、地震は古代・中世の史料に記載が多い。 これは貴族層の「恐怖感」が日記等への記述を促したこと、大風・洪水は江戸時代に多くなるが、これは大河川下流域の耕地開発が進んだため大規模水害を被りやすくなったことが背景にある。
 (2) は、自助・共助・公助は序列的なものではなく、より重層的で複雑なものであり、江戸時代には「公儀」の主導でそれぞれの集団が「分」に応じた役割を果たすシステムが作られていた。 公助のもとで共助・自助がうまく機能する。
 (3) は、基本的にかけがえのない「家」や「村」を守るため、子孫のために書いたが、庶民が自らの災害体験を記録として残すようになるのは元禄頃からである。 この頃になって村の仕組みが整い、家の暮らしも安定するようになるからである。 しかし、明治以降になると一般の個人による災害記録は少なくなる。「家」や「村」の重さに変化が生じたり、科学的な知識や情報量が増えたことで記録を書くことへの切実さが薄らいだ結果なのだろう。 それでも、過去の記録をどう読むかは私たちに問われている重要な課題でもあるが、阪神淡路大震災以降に自らの被災体験を書き残す例が増えてきた。 また、東日本大震災でも葬儀社がどのような対処をしたのかを出版したように「実務記録」は今後重要性を増していくだう。
(講演要旨は『文書館だより』42号に掲載)



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